2014年割とよく聴いたアルバム

あけましておめでとうございます。

 

 毎年恒例ということで、1年間のうち割とよく聴いたアルバムを挙げた。(ちなみに昨年のものはこちら)聴取環境が音楽配信に次いでストリーミングがガンガン入ってきており、今年後半は特にsoundcloudと某サブスクリプション制サービスを垂れ流しだったけれども、大きくは変化が無いような気がした。

 

ビバナミダ(スペース☆ダンディ盤) / 岡村靖幸

     2013年発売のオリジナル盤に加え、新たに2曲のセルフカバーを追加した新装盤。表題曲は西寺郷太氏が制作に加わってる分、(Micheal Jackson”Bille Jean”を引き合いに出すまでもなく)間奏で聴かせる、J-POPとは異質な楽曲構成が素晴らしい。TVサイズと全然違って聞こえるのでテレビでしか聴いていない方は一聴されたし。加えてカップリング曲の中でも推すべきはMEG(当時meg名義)に提供したスキャンティブルースのセルフカバー。原曲がテクノナンバーであったのに対し、こちらはメランコリックなディープハウス風味となっている。SPANK HAPPY「アンニュイ・エレクトリーク」、藤井隆「わたしの青い空」等に並ぶ優れたJ-Houseの名曲。

スキャンティブルース

スキャンティブルース

 


Computer Entertainment System / SERVICE AREA

     アルバム単位では多分これが一番聴いた。去年以降目立ってきた海外でのDJ PaypalTrippy Turtleなどの覆面アーティスト文化に呼応する形で、日本でもBlu-ra¥Content ID マンション©ool Japandj vdidvsなどなどが登場しているが、個人的に一番刺さったのはコレ。というか初代PS起動音や、Tei Towa”Funkin’ for Jamaica(Pianopella)”にWindowsの効果音を乗せるなどのネタ使いが世代的に完全にツボに入った。(だいたい正体は見当ついてるんですけどね)ユーミンのネタ使いセンスも見事だし、久保田利伸「Time Showerに射たれて…」や1986オメガトライブ「君は1000%」のjuked outしたリミックスなどはTraxmanなどを想起させる。J-POPとベースミュージックのハイブリッドで最も優れていると思うものの1つ。

 


UNBORN / 服部峻

 1988年生まれにして、美学校音楽コース1期生という経歴からしてアンファンテリブル感全開な服部峻の1st。美学校音楽コースの講義録で、後にテキストとなる『憂鬱と官能を教えた学校』よろしく、ポリリズムや転調・転スケールの多用がみられるもののポップさは失われておらず、竹村延和レイ・ハラカミを彷彿とさせる素晴らしい出来。


Takashi Hattori - 1st Album - UNBORN - YouTube



Skrillex / Recess

 のっけから「All Is Fair In Love And Brostep」なんて挑発的なタイトルでもってSkrillexフォロワーのZomboyを堂々パクり秩序のないEDMシーンにドロップキック、かと思いきや聴き進めていくうちに、グリッチホップありドラムンベースありスピードガラージあり、実はシブいアルバムだったと判明するという盤。(だからPitchforkはじめ海外メディアでは黙殺されてしまったのだろうか。ダンスアルバムとしてはバランスがかなり良いのではないかと思うのだけれど)特筆すべきは共に世界のダンスミュージック界をリードするDiplo(このアルバムのリリース後、2人はJack Uとしてのユニット活動を本格化させる)との共作「Dirty Vibe」で、この曲ではBIGBANGのG-DRAGONと2NE1のCLをフィーチャーしている。

 ちなみに、G-DRAGONとCLの所属するYGエンタは世界一再生され(挙句の果てにはYouTubeの再生数カウンタまでぶっ壊し)たPSYなども所属しており、また2014年にはLVMHグループからの投資誘致を行っている。また、LVMHはシンガポールのマリーナベイサンズ内のEDMクラブ、kudetaを買収していたりとここらへんでEDMシンジケートが形成されつつある模様。


Skrillex - Dirty Vibe with Diplo, CL, & G-Dragon ...

 


戦前と戦後 / 菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラー

 前三作において南米〜中米〜北米とコンセプトを北上させ続けていた同グループ、「次はソ連か近代ロシアかな〜」とか思って蓋を開けてみると、中身は戦前=戦後日本の「うた」を主軸としながらも様々な場所・時代の音楽にアクセスし、そこに通底するエッセンスを鮮やかに提示するものだった。(それはアルバムの最後を飾るたゞひとゝきメドレーに顕著に表れている。)
 10年ほど前に菊地氏が「スパンクスの後には豊洲に移住して、AORや大人のブラックミュージックがやりたい」(うろ覚え)と発言していたことを事あるごとに思い出す。多少フォームは変わってしまったものの、(そして菊地氏はまだ新宿周辺在住のようだが)歌モノ中心のアルバムがこうして実現されたことが喜ばしい。 

たゞひとゝき

たゞひとゝき

  


Mixatac la collection / VA

 2014年に知った中ではコスパNo.1アルバム(と思ってたら夏にとんでもないのが出ていた。詳細は次エントリにて)だと思っていて、作業中とかに流し聴きしていた。マルセイユで毎年行われるワールドミュージック、ヒップホップ寄りのダンスフェスMarsatac(2014年はTigaQuantic、Acid Arabなどが出演、と書けば何となく雰囲気は伝わるだろうか)のスタッフと、マルセイユ在住のアーティストからなるMixatacが各地のミュージシャンとコラボして作ったアルバムの総集編。マリのバマコ、モロッコのエッサウィラレバノンのベイルートと全く異なる3カ所の音像が収録され、楽しめる。3枚組全26曲でiTunesだと2300円となっており経済的。ワールドミュージックDJには特にオススメの一枚。


Mix Atac Bamako #1 - YouTube

 

次回はお決まりの楽曲編いきます。

 

各々ステート・オブ・マイ・マインド

もう半年近くも前になるのだけれど、音楽評論家の関口義人さんがホストとなって継続的に催されている新・音樂夜噺というイベントに行ってきた。

 

というのも、その回のお題が「ヒップホップ・ゴーズ・トゥ・ザ・ワールド」というもので、イベントページにはラップフランセ(フランス語ラップのこと。念のため)を中心に扱う云々の記述があり、TTCやhocus pocusなどが好きな自分としては「ラップフランセの話が聞ける」と揚々と向かったものの、その期待はいい意味で裏切られた。

 

ちなみに、論者の関口義人さんの著書ヒップホップ!: 黒い断層と21世紀』は発売日に即買いしたものの、あまりに分量がマッシブであったため、時折レファレンスに用いるほどであまり読めていなかった。今回はそこを補うのも目的であった。

 

一方の聞き手の陣野俊史さんはまさしくイベントの数日前に『サッカーと人種差別』という新刊を上梓されたということで移民に関する話も色々と聞けた。(ちなみに陣野さんはジャック・アタリの『ノイズ』の解説やダフトパンク本の翻訳も手がけていると後に知り驚く)

 

ということで下記簡単なメモを記す。文中Sは関口さん、Jは陣野さん。

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新・音楽夜噺 第89夜「ヒップホップ・ゴーズ・トゥ・ザ・ワールド」

 

S: 私は旅行の度にラップのCDを買っていた。原(雅明)さんと(四谷)いーぐるで話したときは「ヒップホップ!」の1, 8章を膨らませるべきだと言われた。


J: 今回のテーマは「移民」。

《 Abd al Malik / Gibraltar 》フランス:ジャジーヒップホップだけどアップテンポでカッコいい。


Abd Al Malik - Gibraltar - YouTube

S: ジブラルタルというテーマ、政治性を持った場所。
J: ラマダンの時に彼に歌詞についてインタビューしたことがある。バックグラウンドはコンゴ系の移民で、ストラスブール育ち。
S: バンリュー(筆者注:フランス語で「郊外」の意)とは異なる言葉の取り方があり、サウンドに格好良さがある。


《 HK / On lache rien 》フランス:どちらかというとMC付きのプロテストソング的な響きか?


HK & Les Saltimbanks "On lâche rien" (Japanese subtitles) - YouTube

J: 北部の工業地帯、リール出身の4人組の別動隊。この時の大領領選のメランション候補の曲。
S: ラップっぽくはないけれども精神はラップ。

M.I.A. / Double Bubble Trouble 》イギリス:新譜はチェックしてなかったけど、これは流石のMIA女史。レゲエ〜Trap〜クドゥロまでシームレスにつなぐ曲。それもその筈、プロデュースはMad DecentのPartysquadですと。


M.I.A. - Double Bubble Trouble at Glastonbury 2014 - YouTube

S: ロンドン郊外→スリランカのタミル移住→ロンドンに難民として戻る。そこで有名DJと出会う。ヒップホップをあまりレベルミュージックとして捉えていない。地方行政とか近隣の地域と戦っている。移民コミュニティの言葉で、ローカルな地域のシリアスな問題を描いている。

J: 自分がヒップホップに関心を持ったきっかけはマチュー・カソヴィッツの「憎しみ」。この映画に触発されたコンピを聴いてから。あとラッパーは境遇がサッカー選手に似ている。アーセナルのユースをクビになってラッパーになったのが次のSefyu。

《 Sefyu / Turbo 》フランス:音節の発音がすごいことになってるラップフランセ。


SEFYU - Turbo (Clip Officiel) - YouTube

J: 歌詞は大したことがないけれど、オノマトペがすごい。両親が反対しているので、キャップを斜めに被って顔を見えにくくしている(笑)。

《 Marxman / Sad Affair 》アイルランドIRA暫定派との和平の直前の93年リリース。


Marxman-Sad Affair (Video) - YouTube

S: アイルランドのヒップホップの火付け役、ドーナル・ラーニー(筆者注:アイルランドの音楽家)の息子が所属している。U2がロックで成し遂げたことをヒップホップでやった。ヒップホップで成功する、音楽家の大物の2代目が世界中にいる。

《 B.U.G Mafia / Strazile 》ルーマニア:2005年リリース。タイトルはStreetの意。


B.U.G. Mafia - Strazile (feat. Mario) (Videoclip) - YouTube

S: ブルガリアアンダーグラウンド・マフィアの略称。チャウシェスクからお金が流れていたマフィアのメンバーで結成。94年のバルカン半島のオールナイトのクラブに行ったとき、圧倒的にヒップホップが人気だった。メンバーは一時政府に追いかけられていた。移民というより、社会の暗部を映し出している。他のギャングをdisったりして、USギャングスタラップの模倣を行っている。

《 Qusai / Any Given Day 》サウジアラビア・中東圏:モロッコの歌手モナ・アマルシャとアブデルファタ・グリニをフィーチャーした曲。


Qusai feat Mona Amarsha & Abdelfattah Grini - Any Given Day - YouTube

S: アラブ界のヒップホップで有名。主にプロデューサーを担当。1978年でリヤド生まれ。衛星放送でUS文化に直接触れる。今はドバイ・レバノンが中心。王家出身で利害関係などがあるため、サウジ出身と言い出しにくい。

《 DJ Lethal Skillz 》レバノン:Qusaiらと色々コラボしている模様。ターンテーブリスト


Dj Lethal Skillz - Downtown Beirut Scratch - YouTube

S: レバノンのベイルートシーンで有名だった。90年代後半に成功した。

《 Miri Ben Ali 》イスラエルWikipediaを見るとウイントン・マルサリスリスペクトだったり、モータウンからリリースしたりとバックグラウンドの多様性が伺える。


The original Hip Hop Violinist - Miri Ben-Ari - YouTube

S: イスラエル出身で周辺のヒップホップのシーンに重用される。Jay-Zがフックアップして2003〜4年のNYシーンで活躍。カニエやNASの楽曲に客演。メンタリティがヒップホップ。

《 Kid Frost / La Raza 》:ローライダーヤバい。


Kid Frost - La Raza - YouTube

S: イーストLAのチカーノラップで、ICE-Tと並んで有名なラッパー。ラップは元々ジャマイカのサウンドシステム発で、DJクールハークなどに代表されている、移民文化。チカーノラップは東(NY)〜西(ギャングスタ)〜南(ダーティサウス)と来て、第四の地域として出てきた。
また、日本国内だと、愛知にチカーノ文化のコミュニティが入っている。シャコタン文化とか。

《 Chico Science / Cicade 》ブラジル:渋谷系に影響を与えたとか。ここら辺も全然チェックできてない。


A Cidade (Clipe) - Chico Science & Nação Zumbi - YouTube

S: マンギビートの旗手で、97年に亡くなってしまった。JBやグランドマスターフラッシュなどに影響を受けている。

《 Marcelo D2 / Voce Diz Que O Amor Nao Doi 》ブラジル:今年のPVで、若く見えるけど1967年生まれの御年46歳、日本のヒップホップ第一世代くらいの年齢だそう。


Marcelo D2 "Você Diz Que O Amor Não Dói" (Videoclipe Oficial) - YouTube

S: PLANET HEMPのボーカルで、ビースティ・ボーイズのプロデューサーが目を付け、USでヒットした。

K’NAAN / Bang Bang 》ソマリア・カナダ:2010年W杯のコカコーラのキャンペーンソングに起用されて、AIとのコラボなどもあったので以前から知ってたけど、 最近はこんな華やかな感じになってたのね。以下の動画はMaroon 5のボーカル、アダム・レヴィーンとのコラボ曲。


K'NAAN - Bang Bang ft. Adam Levine - YouTube

S: デビュー当初はソマリア色が強かった。国連の難民支援のシンボルにもなった。

《 Sindicato Argentino del Hiphop / Donde yo estare 》アルゼンチン:トラックがいかにも南米。


Sindicato Argentino del Hip Hop - Donde yo estare [HQ video oficial] - YouTube

S: 彼ら独特のリズムを4つ打ち化。アルゼンチンはシーンはあるものの、南米の中でもヒップホップが弱い。

《 Drunken Tiger 》韓国:Vice×Intelの「Creator's Project」の一環のPVの模様。Drunken Tigerは現在はラッパー兼プロデューサーのTiger JKのソロプロジェクトで、この曲は彼の奥さんのTasha Reid (aka Yoon Mirae)をフィーチャーしている。


Drunken Tiger 'Get It In' - YouTube

S: LA育ちの帰国子女。

で続いてはShing02。彼はお父さんの仕事の都合でタンザニアダルエスサラームからロンドン、日本と移住している。

Shing02 / 湾曲 》:歪曲はあまり聴き込んでないなー。ドラムは現在相対性理論などで活躍されてる山口元輝氏。この曲はEmi Mayerをフィーチャー。


Shing02 「湾曲」 (Wankyoku) - YouTube


S:中国のヒップホップシーンではロック、ミクスチャー系が人気。台湾とか沿海州で盛り上がっている。

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若干つまみ食い的になってしまった感はあるが、世界各地のラップ表現やヒップホップ受容の違いなどを見ることが出来たので非常に面白かった。普段の情報環境では入ってこない、単語や文化圏に触れられる謂わば「未知の検索クエリを知ることの出来る」イベントは有意義だと思うので、これからも参加していきたい次第。

 

このイベントでは他にも選曲リストがあったので、またの機会にまとめてupしてみようかと思います。